VANTEC

TECH COLUMN

チタンの化学的性質

Chemical Properties of Titanium

WRITNG

チタンは常温では各種の化学薬品やガスとは殆ど反応せず, 従って錆を生ずる事も無い。但し数百度以上の高温では活性と成り, 酸素, 窒素, CO2および水素などのガスと容易に反応して,あるいは表面に非保護性のスケールなどを作ると共に材質の内部にまで拡散して脆化を招くので, 工業的にチタンを取り扱う場合に注意が必要で有る。

酸素とチタンの反応

350°~400℃以下ではチタンは実用上は殆ど酸化が進行しない44)ものと取り扱われ, 酸化速度はきわめて遅く, 対数則に依っている。この条件で生成する酸化皮膜は薄く, 緻密でその組成はTiO (黄金色), Ti2O3 (黒 紫色), TiO2 (酸 素不足の場合は灰色)などより成り, 下地金属に密着している。これに対し700℃以上では酸化速度は極めて顕著に成り, その増量は放物線則に従って非保護性 の粗な白色(高温では黄色)の酸化皮膜を生じる。この組成はTiO2で, 厚みがかなりあると共に母金属に整合ではないため容易に亀裂を生じたり脱落をする。また下地のチタン金属中への酸素の拡散も進行するので薄肉の板材では比較的短かい時間に中心部まで酸素により汚染され, 劣化する。400°~650℃の中間の領域では反応時間の長短によって前記の条件の中間の複雑な挙動を示す。

窒素とチタンの反応

酸素の吸収反応に比べると窒素の吸収反応速度は遅く約1/50で44), 生成する皮膜は主としてTiNに近い組成の物のである。チタンの窒化物 はチタンの酸化物よりも不安定で, 高温の空気中では酸化物に変わる。

空気(高温)とチタンの反応

工業的には重要な反応である。前節より明らかな様に空気中では酸素との反応が主と成り, 窒素はチタンの性質を左右する程度にまでは関 与しない46)。このほか空気は若干の水分を持っていて, 特にわが国では湿度が高いので, 水分からの水素吸収を無視出来ない事も有る。

チタンの耐食性

化学薬品や各種の水溶液に対し, チタンは従来から 耐食材料で有るステンレスよりも優れた耐食性を示す。酸化性の腐食環境では卓越した性質を持っているが, 還元性の腐食環境では工業用純チタンの使用は無理な場合も有り, この場合には耐食チタン合金の使用が望まれる。表8は各種の金属をイオン化電位により貴より卑なものの順序に並べ, 一方実用上最も重要な室温での水溶液中に於ける耐食性の順序 を対比したものであ47)。チタンはイオン化電位だけから見れば決して貴な金属では無いが, 陽極的溶解に対しては著しい不動態の性質を示し大層優れた耐食性を持っている。ここで電気化学的に形成されたチタンの酸化皮膜は高温空気中で生成する酸化皮膜とは耐食性に対し異なった寄与がある。工業上の耐食材料としてチタンの使用条件は複雑 で, 応力, 圧力, 表 面状態, 不純物, 異種材料との接触など構造に関係する問題やエ ロージヨンなどの動的な問題などを含んでいる。プラン トに実際応用した成績からはチタンは非常に安定した性質を示し, 応力腐食, 粒界腐食, ピッティングおよび細隙腐食などの局部的な腐食を起す事は無く, 極めて信頼できる工業材料である。さらに溶接などの加工の影響も殆ど受けない事も特徴と言える。

水溶液中でのチタンの安定

熱力学的な平衝に関するデーターを基にM. Paurbaixにより金属-水系の電位-pH図が作 れている47)。これ更に実際の場合にあてはめて応用するためチタンを25℃の水溶液に漬けた場合, 溶相の全活量を10-6Mとした時の種々の反応を電位とpHとの関係で区分したものが腐食図で, 図14a, bに示す。図14aで は酸化物はすべてTiO2など無水物として計算し, 図14 bで は TiO2H2Oの様な水化物とした場合である。図14に於いて金属(チタン)が完全に陰極防食されていて裸のままでも安定なところをimmunity 領域と呼をび, 逆に溶液として存在する方が安定で腐食が進行する条件のところはcorrosion 領域と呼ばれている。酸化物またはこれらの水化物が安定なところは passivation 領域と呼ばれ, ここでは水溶液に浸漬されたチタ ンの表面にTiO2やTiO2H2Oなどの酸化物を生じ, これらが保護性の皮膜の働きをして腐食を防いでいる。

各種の酸に対する耐食性

硝酸やクロム酸などの様に酸化性の酸に対しチタンは優れた耐食性を持っている1)40)。これに対し塩酸や硫酸などの非酸化性の酸に対してはあらゆる場合に耐えるとは限らない。すなわち温度, 濃度が低い場合は充分実用できるが沸騰条件の様な高温度や高濃度では注意が必要である。この場合溶存酸素(酸化性雰囲気)や抑制剤の効果を持つ不純分(Fe+++, Cu++な ど)などの作用により条件が変化するが, 空気を吹き込むなど積極的に使用環境の改善により広く実用されている。このほか大部分の有機酸に対してチタンは優れた耐食性が有り, 特に酢酸に対してはほぼ完全な耐食材料で, 更に酢酸中に少量の塩酸や硫酸が混入しても殆ど影響を受けない。 トリクロル酢酸, 蓚酸には腐食され, 蟻酸に対しては通気により耐食性の改善を計る事 ができる。発煙硝酸NO2濃度と水分の組成に依ってはチタンと反応する場合も有り, 応力腐食などを起す危険が有る。

アルカリ, 塩類などに対する耐食性

苛性ソーダー, 炭酸ソーダー, アンモニア水など殆ど全てのアルカリ溶液に対して優れた耐食性を示す。例外的に沸騰条件の濃苛性カリ溶液には侵される。各種の塩類に対して優れた耐食性を示す。注意を必要とす る塩類としては沸騰条件の塩化アルミニウム溶液および塩化カルシウム溶液で, 若干の腐食が見られる。汚染海水に対しては優れた耐食性を示す。近年都市近くの海水の汚染の度合が大と成り, 海水を冷却水として利用していた発電所や各種の化学工業の分野では従来のステンレスや耐食銅合金が侵食されて問題をひき起しているが, チタンはこの様な環境では完全な材料である。

資料の提供またはデーターの使用を許可頂いた各位に厚く御礼申し上げます 。

«チタンの用途と応用
TECH COLUMN TOP
チタンの加工»