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TECH COLUMN

チタンの加工

Titanium Processing

WRITNG

溶解チタンスポンジなどの原料を構造材料として利用する為には常法のように溶解, 加工を施す事が必要となる1)。チタンは融点が高く, しかも数百度以上の高温度では空気その他各種のガスと反応し, さらに融点近くではほとんどあらゆる耐火物とも反応する。従って溶解に際しては真空または不活性ガス(Ar, He)中で行ない,るつぼ材としてアルミナ, マグネシウムおよび黒鉛などを使わない事が必要となる。従って真空高周波溶解法は用いられない。現在工業的の溶解法は, 消耗電極式真空アーク溶解法である。チタンスポンジをプレスで圧縮成形して作った円柱状の塊を多数積み重ね, 溶接して太い1本の電極を作りこれを上部の陰極とする。強制水冷により保護され, 鋳型を兼ねた銅製るつぼ内の溶湯(チタン)を陽極として直流アークにより加熱溶解を行なう。チタンで作られた電極はアーク熱30)によりそれ自身が溶解し溶湯を補給しながら連続的に水冷銅るつぼ内に落ちてインゴットとして凝固する。溶解の進行 により消耗する電極はあらかじめ十分長く作られているので適当な送り装置により常に送り込まれ, 一定のアーク状態を保つ操業される。このアーク溶解は真空中で行なわれるので酸素や窒素など有害な不純物による汚染を防ぐと共にMgCl2などスポンジチタンに僅か含まれている蒸気圧の高い不純分は真空ポンプにより排出除去される。このようにして作った一次鋳塊は表面肌が粗く, 内部にもピンホールなどの欠陥を持っている事が多いのでこの一次鋳塊を消耗電極とし同様の方法で再溶解(Double are melt)して健全なインゴットを得る。現在わが国では最大約5トンのチタンインゴットが作られているが, 外国ではさらに大きい10トンインゴットも作られている31)。

鍛造および熱間加工

鋳塊は表面削りしたのち熱間鍛造を行なう。空気中で高い温度に長時間加熱するときには結晶粒の粗大化が起こると共に表面に厚い酸化層が生成する。この為真空中または不活性ガス中での加熱が望ましいが, 工業的には繁雑でありかつ不経済である。実際には薄肉のものを除き大きな鋳塊, ビレットなどはなるべく短時間に所定の温度まで加熱し, 手早く熱間加工を行なっている。高温になれば変形抵抗は急激に減るので, チタンの熱間加工は容易であり, ことにα⇔β変態温度以上では立方晶と成る為一層加工は容易となる。しかし高温では結晶粒の粗大化や大気中の酸素や湿気よりの水素などの汚染によって材質に悪影響の危険が有る為, 必要以上の高温 で長時間加熱しないなどの注意が必要である。インゴットの鋳造組織を破壊する為の荒鍛造は約900℃ β領域で行なわれるが, 加工度が進むに従って温度を下げ, α+β領域で行ない仕上げ加工は通常α領域の750°~650℃で行なわれる。

チタンの加工組織

チタンは亜鉛やマグネシウムと同じく六方晶金属であるが, c/aが小さいので, これらとは異なった加工集合組織を示す。圧縮加工; (0001)面が圧縮面に平行となる傾向がある32)。線引き加工; 方向が線の軸に平行に並び, 再結晶組織は方向が線 の軸に対し約11度傾く33)。冷間板圧延; 方向が圧延方向に並び, 六方晶の底面は圧延面に対し約30度傾く34)。再結晶組織は底面と圧延面の傾きはそのままであるが, 方 向が圧延方向に平行となる33)。すべり系; チタンの室温での変形はすべりと双晶の形 成による。最大のすべりは (1010) であるが, この他(1011)も起る。底面内のすべりは単結晶には認められるが極めて起り難いとされている。各々のすべり系の室温におけ る臨界せん断応力は表7に示す様である。侵入型不純分の量により大きな影響を受けていることが見られる35)。変形双晶; チタンの冷間加工の際見られる双晶36)は(1012) 双晶および(1121)双晶が最も多く,(1122)双晶は極稀れである。これらの双晶の出現は元の結晶方位に依存している他, 不純分(侵入型原子)の量にも関係が有り, 高純度の単結晶ではより高次の(1123)双晶および(1124)双晶も観察されている。α-チタンの主なすべり系および双晶面を図10に示す。

チタンの二次加工

チタン板や管の曲げ, 絞りなどの成形加工はステンレスと同様の工具を用いて行なう事ができる37)38)。工業用純チタンは不純分含有量が少ないものほど, 耐力値は小さく, かつ引張り強さとの差が大きく, 伸びもまた大きいので加工性が良い。不純分の含有量が多く成れば, 引張り強さ及び耐力の絶対値が大と成ると共に σ0.2/σβ比が1に近くなる。この事は変形に大きな力が必要と成ると共にスプリング・バックが大と成るなど成形加工が困難と成る事を示している。常温での最小曲げ半径は板厚の1.5~2.5倍である。しかし曲げ半径の小さい場合は200~300℃の温間加工 が望ましく, 図6からも分かる様にこの温度ではσ0.1は室温の約1/2と小さく, スプ リング・バックも少なく成るので正確な加工ができる利点がある。チタンの絞り加工は遅い速度で行なう事が必要で, 水圧プレスが用いられる。またダイスとの焼き付の恐れが有るので, 適当な潤滑剤が必要である。1回の加工率は室温では8~10%の程度であるが, 200℃では40~60%の加工が出来るので, 実際の絞り加工は200 ℃で行ない数回 に分けて所定の形を得る様にしている。

チタンの焼き鈍まし

チタン2次再結晶温度は図11よりも明らかな様に500~600℃で, 一般に不純分の多いもの程高温度である。従って工業用純チタンの焼鈍まし作業は700℃, 2hrを標準としている。応力除去の焼鈍ましは480~540℃で約45minの後空冷を行なつている37)。これらの工業的の熱処理は大気中のマッフル炉, 電気炉などで手早く行なう。この際生じた酸化被膜は酸洗いにより容易に除去する事が出来, 酸洗い浴は20%HNO3-3%HFを約50℃に温めて用いる40)。なおチタンの熱処理にあたり, 薄肉のものは真空又はアルゴンガスなどの不活性雰囲気を用いる事が必要であるが, 他の金属に用いられるアンモニア分解ガスや水素ガス炉などは水素脆性を起すので使う事はできない。

チタンの溶接

チタンは適切な注意の下で容易に溶接する事が出来る37),40)。この際, 最も大切な事は溶接部の汚染による材料の劣化を防ぐ事である。既に述べたように溶解した高温のチタンは化学的に非常に活性で有る上に, 0.3%程度の僅かの酸素や窒素などが入 つても著しく硬さを増すと共に靱性を失なう。従って空気成分の酸素, 窒素および水素(H2O)からの汚染を防ぐ為にはアルゴンガスを用いてシールドを完全にする事が必要 と成り, また表面に付着している油や塵なども十分に除いて清浄にする。溶接はTIGが 普通である。チタンの空気酸化は数百度以上で激しくなり劣化をひき起すので, ビードは溶接直後よりこれらの危険が無くなるまで冷える間は完全にガスシールドをする技術が必要である。同様な事は高熱を受けるビード近傍の巾方向にも言える事である。これらのために他の金属の溶接には必要のないシールド技術とその為の若干の付属装置 又は治具などが必要である。

チタンの機械加工

チタンの切削性は高ニッケルステンレス鋼と同程度で特別の困難さはないが, 下記に示す様な特徴が有るので適切な切削条件を選ぶ事が必要である38),41)。 チタンは刃先の先端部分とだけ接触しながら薄い切りくずが早い速度で流出する。これ は構成刃先を作り難いのでせん断角度が大きく成り, また加工硬化度が小さいので低い 力でせん断切削される事による。この様に刃先の接触面積が少さいので単位面積当り の面圧が高く成り, しかもチタンの熱伝導率が小さいので摩察熱は刃先に集中して局部的に高熱に成り易い。チタンと鉄(工具)は高温では合金を作り易く, 焼き付きやかじりを生じやすい。これはFe-Ti 2元状態図において68%Ti-32 %Feの組成で1085℃の低 い温度の共晶反応が有る43)事からも容易に推察されよう。従って具体的にチタンの切 削に当っては, 切削速度を小とし, 送り速度を大きく取って温度上昇を抑えると共に切削液は冷却作用を主眼として充分の量を用いる。また工具の管理を良くして常に鋭い 工具を使い, 摩耗し始めた工具は直ちに取換える様にする。工具材質は高速度鋼でもよいが, 超硬合金の方が能率的で, 標準の切削条件として高 度鋼工具では切削速15~25m/min, 送0.1~0.3mm/rev, 超硬合金工具ではそれぞれ40~80m/ min, 0.1~0.5mm/revで有る。孔明けに用いるドリルは図12bの様にスパイラルポイントが適しているとされ, これによりスクイ角を大きくする事ができるので適当な逃げ角とな成ってスラストは約30%減少する。フライス加工は普通の金属とは異なったクライムミー リング法が推奨されている。図13bに示す様に本法の方が削り終りの時のチップが薄いので, チップが刃先から取れ易く, 従って焼き付きが少なく成って工具破損が少ない利点がある。

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