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TECH COLUMN

チタンの機械的性質

Mechanical Properties of Titanium

WRITNG

工業用純チタンの機械的性質として報告されている値は表1にも見られる様に, かな り広い巾がある。これは前述の物理的常数と同様にチタンの品位, 特に侵入型の不純分原子の存在により機械的性質が大きい影響を受けるためである。 ASTMではチタン展伸材を強度レベルにより分類規定し, 引張り強さの保証値で40, 50, 60および80×103 psi, 耐力はそれぞれこれらの72~88%としている。 JIS (1964年)では引張り強さで28, 35及び49kg/ mm2以上の3種としている。チタンの品位に最も重大な影響を与える酸素含有量は工業分析技術の困難さも有って, ASTMではまだ規定していないが, わが国では解決が済んだので, 既に規格21)として採り入れ, 品質の管理を行なっている。

チタンの硬さ

硬さ測定の試験は簡単に行なう事ができ, しかもブリネル硬さは比較的圧痕 も大きい為チタンのマクロ組織にも殆ど影響を受けず再現性も良く, 更に純度および機械的性質とも良い対応を持っている20)などの利点がある。この為, チタンの品位を知 る目安としてブリネル硬さは重要である。但しチタンの結晶構造が六方晶で有る為c軸 方向とa軸方向ではすべりに対する挙動が異なるので結晶方位の影響が有る事は容易に理解される。従ってマイクロビッカース硬さではかなりのばらつきが有るのは当然で有る為, 荷重150kgを用いたブリネル硬さの測定によるのが標準である21)。不純分含有量が究めて少ないチタンの硬さはHB55ないし60と報告されている。図4に示す 様にヨードチタンにそれぞれの不純分を単独に添加した効果を比較すれば窒素, 酸素, 炭素および鉄の順序に硬さを増す22)。但し通常の製造方法に依る時は窒素の混入の程度は少なく, 且ほぼ一定限界以下で酸素量の1/4~1/5の程度で有る為, 窒素の影響は小で工業材料としてのチタンに於いては酸素含有量が最も大きい影響を与えている。

チタンの引張り強さ, 伸び市販純チタンの引張り強さ

引張り強さ, 伸び市販純チタンの引張り強さは約28~60kg/mm2で工業用純金属 としてはアルミニウムは申すに及ばず, 鉄よりも強く, また耐力/引張り強さ (σy/σB)の比の値は0.75~0.85で比較的大きい。引張り強さ(QB), 耐力 (σy)はいずれも不純分元素としての酸素含有量の増加に伴って大と成り, 図522.23)に見られる様に硬さともほぼ対応している。伸び(%)はこれらの値と負の相関がある。ある限度 (許容限度)以上に多量の不純分が含まれる様に成れば(たとえば酸素>0.3%)チタンの靱性は著しく損なわれると共に加工性も悪くなり, 構造材料としての価値を失なう様に成る。

ELIチタン極低温の靱性とnotch toughness

ELIチタン極低温の靱性とnotch toughnessは侵入型の不純分元素により影響を受 ける度合が室温試験の時よりも大きく, 特に強力合金として実用の場合には問題も有る為, 酸素など侵入型不純分の許容限を特に小さく規定される事が有る。ELI grade (Extra Low Interstitial)と呼ばれ, 不純分として酸素<0.08%,窒素<.01~0.015%, 炭素<.02 ~0.03%の程度の高品位のチタンが工業的に作られている24)。

高酸素チタン一方図5より明らかな様に不純分元素はある程度まではむしろチタンの強化に役立っている。すなわち許容量以内では不純分の増加に伴って靱性を損な う事無く強さ, 耐力などは大と成る。チタンを耐食材料として応用する場合には極低温にはならず, 複雑な応力も殆ど加わらない場合もある。従って前述のELI gradeとは対 照的に考え, むしろ不純分元素を合金配合成分の1つと考えて適当量を増す事に依りかなりの程度までは工業用チタンの強度を高める事が出来る。これにより設計や施工に際 し材料の厚みを減らす事がで切るのでチタン製の装置や機器の材料費の節減に有用で ある。この目的の為には酸素量の調節が最も効果的で, 許容上限である酸素量0.2%よ り最高0.25%付近を目的に応じて正確にコントロールした高酸素チタンが考えられ24), わが国では耐食材料へのチタンの需要の増加と共にかなり多量に実用されている。高酸素のチタン展伸材(mill products)を作る為に用いるチタンスポンジは加工行程中の酸 素などのpick upを考慮に入れて0.12~0.2%酸素の品位のものが使われる。

工業用純チタンの機械的性質と不純分Kroll法

工業用純チタンの機械的性質と不純分Kroll法では鉄製の容器を用いたり, 原料塩化物の工業的な精製行程に限界があるので, 若干の鉄分の混入は避ける事が出来ない 。チタンに対し僅かの鉄分でも結晶粒度や機械的性質にかなりの影響を及ぼす事が明らかにされているので, 工業的には厳重に品質管理が行なわれている。工業用純チタンの機械的性質と不純分含有量との間には次の様な実験式が与えられている25)。不純分の内窒素は酸素に比べて含有量が少なくまた変動も少ないので, この実験式では除外 されている。酸素含有量(ppm)をCO; 鉄含有量(ppm)Cとすれば 下記の様である。

  • 引張強さ(kg/mm2)=0.0117CO+0.0053CF+28.310
  • 耐力(0.2%) kg/mm2=0.0116CO+0.0048CF+19.235
  • 伸び(%) =1.64×10-6CO2-0.0160CO0.033CF+46.253
  • 絞り(%) =-0.0185CO-0.0075CF+84.074
  • 硬さ(HB) =0.0381CO+0.0171CF+89.746 5.2.4

チタンの高温強さ

35kg/mm2クラスの工業用純チタンの, 試験温度を変えた引張り試験26)27)の結果は図6に示す様で, σβ, σy は室温から200~300℃まではかなり急激に減少するが, 300~4000℃の範囲ではそれらの変化の程度が緩やかと成り伸びが出る。 これは歪時効に依るとされている。400℃以上では再び急激に低下する。49kg/mm2ク ラスのチタンに付いてもほぼ同様の傾向が見られる26),27)。

チタンのクリープ強さ

工業用純チタン(酸素含有量の高い49kg/mm2クラス)の応力-破断時間曲線26)は図7に示す様で, 試験温度が316℃ (600°F)の場合には特有の限界応力 が存在する。すなわち約400℃ (800°F)および約200℃(400°F)などではいずれもこの曲線は破断時間軸に対してある傾斜を持ち普通の材料と同様の傾向を示している。約300 ℃ (600°F)では約21kg/mm2限界とし, これ以上の応力ではきわめて短い時間で クリープ破断をするが, 逆にこの応力以下では殆どクリープを起こさず, この曲線は破断時間軸にほぼ平行である。この試験に用いた材料の300℃でのσB≒25kg/mm2, σ0.2≒15kg/mm2と比較して考えると, 破断クリープ試験の300℃でのこの限界応力は300℃での耐力値よりも大きいことが特徴である。これはチタンを構造材料としてやや温度の高い場所に用いる時大変有利な設計条件で, 耐力一杯までは安心して使用で きる材料である。切欠きを与えた試験片のクリープ強さは平滑試験片の値(室温で約30kg/mm2)よりもかなり高く約40kg/mm2を示し, 破断後の伸びはやや低下してはい るが, なお13~15%で, 他の材料と比べると十分な靱性を持っている。

チタンの疲れ強さ

チタンの疲れ強さは引張り強さの50%以上である。アルミニウムの場合 は約30%の程度であり, 熱処理した強力アルミニウム合金で約50%となる。回転曲げ疲労試験のS-N曲線は図8に示す様で, 空気中で試験した平滑試験片の値が水冷条件 の値より幾分低いのは発熱の影響とされている26)。すなわち平滑試験片を疲労限よりやや高い応力で繰返し荷重を与えると発熱により試験片温度が上昇し, このため降伏 して曲る事も有り, 破断に至るまで試験を続ける事が出来ない場合もある。水冷または切欠きの条件では通常の破断状況を示す。大きな応力振巾の場合には繰り返し速度の影響が少なくほぼ同一繰り返し数で破断する。小さな応力振巾の場合には低サイクルの方が破断繰り返し数ならびに疲れ強さが小となる傾向が見られている。これはクリープの影響が有るものと考えられている。 疲れ試験片に切欠き(60°V型)を与えた場合に疲れ強さは低下し, 切欠き係数βKは切欠き底半径1.2mm, 外径12.5mmφ, 切欠き底径10.0mmφの場合約1.4で鋼の場合とほぼ同様である。以上実用問題以外に静的変形と破壊の特徴と疲労の基礎的問題点は最近志村により報告がある28)。

チタンの衝撃強さ

チタンのシヤルピー衝撃値は室温では約22~13kgmであるが, 図9に 示す様に-100°~-200℃では約26~ 16kgmとかえつて大である26)。チタンの衝撃値 に最も大きい影響を与える不純分元素は水素29)で有って約30ppm以下で有れば殆ど悪影響はないが, 数拾ppm以上では衝撃値が低下し, 図9の点線の様に特に低温にお いて有害である。これはα-チタン中への水素の固溶度が小さく, また室温附近でもなお温度の低下に伴って固溶度が変化する為, 数十ppm以上の水素は冷却により脆い水素化合物として微細に析出する。この為特に衝撃値に対してはなはだしい悪影響を示す ものとされている。チタン合金の場合は純チタンとはやや異なり, 普通の材料と同様に極低温では室温の衝撃値よりも若干小さくなるが, 脆一靱の遷移点を示さず, 靱性を保っている。

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