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TECH COLUMN

チタンの物理的性質

Physical Properties of Titanium

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チタンの原子チタンは原子番号22の元素で, 周期律表では第1長週期のIVA族に位置し, 原子量47.90である。同位元素10)は表3に示す核種が知られている。チタン原子の核外電子配列は1s2, 2s2, 2p6, 3s2, 3p6, 3d2, 4s2である。配位数を6とした場合 のチタン原子およびイオン半径ならびにそれらの最外殻電子配列などは表4に示す1)。

チタンの結晶構造および格子常数室温

結晶構造および格子常数室温でチタンは稠密六方構造を持ち, α-チタンと呼ばれ, 高温では体心立方構造となりβ-チタンと呼ばれる。α⇔β変態温度は882.5℃である。チタンを室温付近で使うときはα-チタンの性質が対象となる。純チタンでは焼き入れ によっても高温のβ-チタンを常温まで残留させる事はできない 。但し適当な添加元素の所定の量を配合したチタン合金ではこの限りではない。α-チタンの格子常数1936年 以来数多くの研究者により種々の数値が発表されているが, それらの値は一致していない。この原因はそれぞれの研究者が試料として使用したチタンの純度の相違によるもの と考えられている。たとえばα-チタンの格子常数は図2より明らかなように不純分である酸素の含有量によって変化する11)。チタンの製造技術の進歩発達に伴って, 純度 の高いチタンが供給される様に成って来るので, 格子常数の測定結果も年代を追って少 さい値が報告されている。しかし実際の問題としてはチタンの製造や精製に際してはい かに注意と努力をしても僅少の不純分の残留する事は技術的に避けることができない。 その後, 多数のデーターが報告されると共に分析精度の向上と相俟って両者の関係が整理されて明らかと成ったので, 不純分量をゼロの位置まで外挿して純チタンの価とされ ている。この事は後述する様にチタンの融点などの諸常にも言える事である。現在ではa= 2.9503Å, c=4.6831Å, c/a=1.587が最も確かなα-チタンの値とされている12)。 表はα-チタンに対し酸素, 窒素および炭素を1% (重量)加えた場合の格子常数の変化を示したものである。通常の市販純チタンには不純分として合計0.3~0.8 % (重量)が含 まれている。これらのうち侵入型の不純物元素の増加によりα-チタンはc軸方向に大 きなプラスの影響を受けるが, a軸方向への影響は僅かであるため, c/aの価は増加する。 置換型の不純物として市販純チタン中に含まれる鉄, けい素およびマンガンなどはごく僅かの量しか存在しないので, 純チタンのα相の格子常数には殆ど影響を及ぼさない。尚β-チタン中にはこれらの元素はかなり多量に固溶する。純チタンは前に述べた様に室温では焼き入れなどによってβ-チタンが得られないため, β相の格子常数は直接高温の真空中で測定するか, 又はβ安定型元素をそれぞれの量含む合金のβ相の格子常数を求め, 添加元素の量がゼロのところまで外挿して算出する。β-チタンは体心立方晶で, 常温ではa=3.282~3.294 Å, 900℃で は3.32Åである。

密度前節の格子常数より計算によって求めると, ρ=4.505 g/cm3となるが実際に比重測定法によって求めるとρ= 4.549/cm3となりやや大きい。この差は不純分によるもので, 特に酸素の原子量はチタンの1/3と比較的重いにも係わらず, 表5よりも明らかな様に母体の格子を余り伸ばさずに侵入型の固溶体を作ことから理解される。

チタンの融点

チタンの融点は極僅かの量の酸素, 炭素及び窒素などの侵入型元素の存在によって急激に上昇する。また共晶型の元素 (殆どの金属元素)を不純分として含むときは融点を低下する。1950年頃まではチタンの融点は約1725℃(古くは1800℃)とされていたが, 純度のよい料の供給が可能に成ると共にそれぞれの不純分についての品質管理が進み, データーの解析が出来る様に成った事,及び融点測定の技術の向上などに従って低い融点の値が発表される様に成った。現在チタンの融点として最も信頼できる値 は1668°±5℃とされている13)。

α⇔β変態および変態温度α相よりβ相への変態に伴い物理的性質に急変が起 ることを利用し, 具体的には電気抵抗, 熱起電力, 及び 熱容量などを温度を変えながら連続的に測定し, その不連続よりα⇔β変態温度を求める。各種の方法による結果 を総合して882±0.5℃とされている。稠密六方晶⇔体心立方晶の変態の際のそれぞれの結晶格子の方位関係に付いては1934年にBurgers14)よりチタンと同様の挙動を持ったジルコニウムを用いて研究され, その後チタンも下記に示す様同様な関係に有る事が明らかにされた。すなわち (0001)α//(110)β, (1120)α//(111)βで1/2~1度のずれがある。純チタンは焼き入れしてもβ相を室温まで残留する事ができず, β相からα相への過程にマルテンサイト組織(α’)を生じ, この針状組織の大きさ, 巾は冷却速度により異なるが, その晶癖面は(331)β17)または(89 12)β15)と報告されている透過電子顕微鏡観察の結果16), マルテ ンサイトの内部組織として変態双晶, 積層不整お よび転位などの格子欠陥の存在が報告されている。この変態双晶はマイクロ双晶とも呼ばれ, (1011)を双晶面としその厚さは通常600 ~700Åの程度であるが, 最大3000Å最小250Åの場合も観察されている。

比熱,熱伝導および電気抵抗15℃におけるチタン(α)の比熱は0.1248±0.0002cal/ ℃/gである。変態温度以上のβ相領域では0.157cal/℃のほぼ一定値と報告されている。熱伝導度は図318)に示す様で, アルミニウムその他の金属より小 さく, また電気抵抗も他の金属よりも遥かに大である。

熱膨張係数チタンの膨張係数

熱膨張係数チタン(多結晶)の膨張係数(は15℃で(8.35×±0.15)×10-6/℃で, この値はアルミニウム23.86×10-6/℃, マグネシウムの25.8×10-6/℃に比べて少さく, 図3に示す様である。αチタンの軸比は稠密六方晶の理論値である1.633よりも小さいので, 単結晶に於いては結晶方位により線膨張係数が異なるはずであるが, 現在では正確 な実測データーは得られていない。これは精密測定を行なうのに十分な大きさの純チタンの単結晶を作ることが技術的に困難であるため, 未解決と成っているものである。 ヨード法により作られたチタンの結晶(Crystal bar)はある程度の選択方位を持っているので, これを利用した測定よりc軸方向の膨張係数は軸方向よりも約20%大きいとされている。

弾性定数引張り試験の結果より求めたチタン(多結晶)の縦弾性係数(ヤング率)は 研究者により9.7~13.8×1011dyne/ cm2の範囲でばらついているが, これは供試試料 の方向性(繊維組織)や純度に依存するためと考えられる。横弾性係数(剛性率), ポアソン比などの諸弾性定数の2.3の例を表6に示した。

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